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日本実業出版社の企業実務2023年9月号別冊付録

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消費税のインボイス制度について(チェックリスト付き)

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消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)詳細解説

イラスト:説明されている人

令和5年(2023年)10月1日から消費税の複数税率に対応した「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されますが、このページではそのインボイス制度について理解を深めることができるように解説しています。

なお、無料でダウンロードできる「適格請求書等保存方式(インボイス制度)移行のためのチェックリスト」を用意していますので、この機会にぜひご活用ください。

インボイス制度のポイント早わかり

適格請求書(インボイス)を発行・交付するためには適格請求書発行事業者としての登録が必要である

適格請求書発行事業者でない者は適格請求書(インボイス)を交付してはならない

適格請求書発行事業者は必ず消費税の申告・納税をしなければならない

免税事業者が課税事業者になった初日から登録を受ける場合には15日以上前に登録申請書を提出しなければならない

適格請求書発行事業者の取りやめの手続は効力発生の15日以上前に行わなければならない

適格請求書発行事業者は課税事業者である買手の要求に対して適格請求書(インボイス)を交付し、その写しを保存する義務がある

適格請求書には定められた事項を記載しなければならない

適格請求書の記載事項に誤りがあった場合には修正した適格請求書を再交付しなければならない

適格請求書等を発行・交付できない免税事業者や消費者からの課税仕入れは原則として仕入税額控除が認められない

受領した適格請求書の有効性(請求書等の発行事業者が適格請求書発行事業者であるか否か)の確認が必要となる

売上げに係る消費税額は原則として「割戻し計算」で計算し、例外として「積上げ計算」(インボイス積上げ計算)で計算することも認められている

仕入れに係る消費税額は「積上げ計算」で計算(「請求書等積上げ計算」又は「帳簿等積上げ計算」)する

売上げに係る消費税額を「割戻し計算」で計算している場合には、仕入れに係る消費税額を「割戻し計算」で計算することができる

適格請求書を発行できない免税事業者は、得意先から取引条件の変更(値下げなど)を要請されたり、取引を打ち切られたりするおそれがある

制度概要・登録編

1.適格請求書(インボイス)とは

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書及びこれらに類する書類のことをいいます。消費税の軽減税率の導入により税額計算が複雑化し、必要とされる情報がインボイスに記載されることで、事業者はこれを基に適切な納税を行うことができます。
インボイス制度下では、原則としてインボイスに記載された消費税額を仕入税額控除の対象とすることができます。

2.適格請求書(インボイス)を発行・交付するための条件

適格請求書(インボイス)を発行・交付するためには、税務署長に対し一定の事項を記載した登録申請書を提出し、登録を受けなければなりません。適格請求書を交付することができる事業者として登録を受けた事業者を適格請求書発行事業者といいます。

登録申請書を提出した事業者は、登録拒否事項に該当しない限り登録を受けることができます。登録を受けた事業者には原則として書面で通知されるとともに、その事業者の①氏名又は名称及び登録番号②登録年月日③法人の本店又は主たる事務所の所在地などの事項が、国税庁のホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」で速やかに公表されます。登録の効力は通知の日にかかわらず適格請求書発行事業者登録簿に登載された日に発生します。

上記の登録申請手続きは電子申請でも行うことができます。また、登録通知書も電子データで受領することができますので、e-Taxを利用すればこれら一連の手続きを簡単かつ迅速に行うことができるようになっています(国税庁もe-Taxの利用を推奨しています)。

登録申請から登録通知までの期間は、時期にもよりますが、書面による申請の場合は約2か月、e-Taxを利用した申請の場合は約3週間の期間が見込まれています。

適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として消費税の課税事業者であることが前提となっており、免税事業者のままでは登録を受けることはできません。

なお、インボイス制度が導入された後は、事業者は ①適格請求書(インボイス)発行事業者 ②適格請求書発行事業者でない課税事業者 ③免税事業者 の3つに区分されることとなります。

表:適格請求書(インボイス)を発行・交付するための条件

<解説>課税事業者と免税事業者

課税事業者とは消費税の申告及び納税が必要な事業者(個人事業者又は法人)で、原則として基準期間(前々年又は前々事業年度)の消費税の課税売上高が1,000万円を超えるもの、又は特定期間(前年又は前期の上半期)の消費税の課税売上高もしくは給与等の金額が1,000万円を超えるものをいいます。

一方、免税事業者とは消費税の申告及び納税義務が免除される事業者(小規模事業者に係る納税義務の免除)で、原則として基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり、特定期間の課税売上高もしくは給与等の金額も1,000万円以下であるものをいいます。

なお、免税事業者が課税事業者となるのは、主として次の2つの場合です。
①基準期間(又は特定期間)における課税売上高が1,000万円を超えた場合
②自ら進んで課税事業者になる旨の届出書「課税事業者選択届出書」を提出した場合

3.登録申請のスケジュール

適格請求書発行事業者の登録申請の受付は、令和3年(2021年)10月1日から開始されます。適格請求書等保存方式が導入される令和5年(2023年)10月1日に登録を受けるためには、課税事業者も免税事業者も原則として令和5年(2023年)3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。ただし、令和5年9月30日までに一定の手続きを行うことで令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされます。

イラスト:登録申請のスケジュール

4.免税事業者が課税事業者を選択して登録する場合

免税事業者が前述の「課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となって適格請求書発行事業者の登録を受ける場合の留意点は次のとおりです。

①登録日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間である場合

上記課税期間中に登録を受ける場合には、登録日(提出日より15日以後の日を記載)から課税事業者となる経過措置がありますので、課税事業者選択届出書の提出は必要ありません。令和5年10月1日に登録を受ける場合には、上記3.のとおり令和5年9月30日までに登録申請書を提出すればよく、令和5年10月2日以後に登録を受けようとする場合には、登録の審査等に2か月程度(e-Taxを利用した申請の場合は約3週間)を要すると考えられますので、時間的な余裕をもって登録申請書を提出することを推奨します。

(注)「課税期間(消費税額の計算の基となる期間)」は原則として個人事業者は暦年、法人は事業年度です。
例えば、個人事業者等のように課税期間が令和5年1月1日から同年12月31日である免税事業者で令和5年10月1日に登録を受ける場合には、令和5年1月1日から9月30日までの期間は免税事業者で、10月1日から12月31日までの期間は適格請求書発行事業者となりますので消費税の課税事業者となり、課税期間の中途から申告及び納税義務が発生します。

イラスト:適格請求書発行事業者の登録を受ける場合のスケジュール

②登録日が①に規定するの日の属する課税期間の翌課税期間以後の場合

令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間の翌課税期間以後に登録を受ける場合には、課税事業者選択届出書及び登録申請書を提出する必要があります。課税事業者となる課税期間の初日から登録を受ける場合には、その課税期間の初日の前日から起算して15日前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。

例えば、免税事業者である個人事業者が令和12年1月1日から課税事業者となることを選択し、同日に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合には、令和11年12月17日までに登録申請書を提出し、課税事業者選択届出書を令和11年12月31日までに提出することが必要です(私見ですが、登録申請書と同時又はそれ以前に提出するのが望ましいと考えます)。

5.新たに事業を開始した場合の登録

新たに事業を開始した個人又は免税事業者である法人が、事業を開始した日の属する課税期間等の初日から適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、その事業を開始した課税期間の末日までに課税事業者選択届出書と登録申請書を併せて提出することが必要です。

6.適格請求書発行事業者の取りやめと失効

適格請求書発行事業者が、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(「登録取消届出書」)を税務署長に提出した場合には、適格請求書発行事業者の登録は効力を失います。

原則として、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に適格請求書発行事業者の登録が失効します。

ただし、登録取消届出書の提出が、その提出のあった日の属する課税期間の翌課税期間の初日から起算して15日前の日から後であった場合は、その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日に適格請求書発行事業者の登録が失効します。

例えば適格請求書発行事業者である個人事業者が、提出日の翌課税期間の初日である令和7年1月1日から起算して15日前の日にあたる令和6年12月17日から後に登録取消届出書を提出した場合、令和8年1月1日に適格請求書発行事業者の登録が失効します。

7.適格請求書発行事業者における小規模免税点制度との適用関係

イラスト:困っている男性
 適格請求書発行事業者には、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定の適用はありません。つまり、適格請求書発行事業者である間は消費税の申告及び納税義務があります。

なお、適格請求書発行事業者の登録を受けていないとすれば、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である等の理由により免税事業者となる事業者が小規模事業者に係る納税義務の免除の適用を受けるためには、その適用を受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までに登録取消届出書の提出が必要となります。

また、課税事業者選択届出書を提出している適格請求書発行事業者が、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である等の理由により小規模事業者に係る納税義務の免除の適用を受けるためには、登録取消届出書及び課税事業者選択不適用届出書(課税事業者選択届出書の効力を失わせるための届出書)の提出が必要となります。

なお、上記4.①の経過措置の規定により、免税事業者が課税事業者選択届出書を提出せずに、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合において、登録日の属する課税期間の翌課税期間に登録を取りやめることとした場合であっても、登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含む課税期間である場合を除き、登録日の属する課税期間の翌課税期間と翌々課税期間は納税義務が免除されないこととなります(課税期間が12か月である場合)。これは、課税事業者選択届出書を提出した場合には最低2年間は課税事業者であることが強制されることと平仄を合わせるものです。

適格請求書の内容編

8.適格請求書発行事業者の義務

適格請求書発行事業者は、課税事業者である取引の相手方から求められたときは、適格請求書の交付義務が免除されるものを除き、「適格請求書」又は「適格簡易請求書」を交付し、その写しを保存しなければなりません。なお、あらかじめ相手方の承諾を得て、書面による交付に代えて電磁的記録(電子インボイス)を提供することができます。

また、例えば公共交通機関による旅客の運送や自動販売機等により行われる取引(いずれも3万円未満のもの)などのように、適格請求書を交付することが困難である一定の取引については、適格請求書の交付義務が免除されます。

9.適格請求書の記載事項

適格請求書には次の事項を記載しなければなりません。これらの記載事項は一枚の請求書に全てが記載されている必要はなく、納品書と請求書等の二以上の書類であっても、これらの書類について相互の関連が明確であり、その交付を受ける事業者が記載事項を適正に認識できる場合には、これら複数の書類全体で適格請求書の記載事項を満たすことになります。なお、適格請求書や適格簡易請求書には定められた様式はありません。

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減対象資産に係るものである場合にはその旨)
④税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額の合計額)
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

なお、⑤の消費税額等は、次のいずれかによって算出した金額となります。
(ア)税抜価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に10%(軽減税率は8%)を乗じて計算した金額
(イ)税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に110分の10(軽減税率は108分の8)を乗じて計算した金額

消費税等の1円未満の端数処理は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理(切上げ、切捨て、四捨五入など任意の方法)を行います。一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することはできません。

<適格請求書の記載例>

イラスト:格請求書の記載例

(出典:国税庁)

10.適格簡易請求書の交付

適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業など不特定かつ多数の者と取引を行う事業者である場合には、適格請求書に代えて次の事項を記載した適格簡易請求書を交付することができます。なお、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載は省略することができます。

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②課税取引を行った年月日
③課税取引の内容(軽減対象資産に係るものである場合にはその旨)
④税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額
⑤消費税額等又は適用税率

11.適格返還請求書

売上げに係る対価の返還等を行う適格請求書発行事業者は、次に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類(適格返還請求書)を交付しなければなりません。ただし、売上に係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されます(15.③参照)。

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②売上げに係る対価の返還等を行う年月日及び売上げに係る対価の返還等に係る取引を行った年月日
③売上げに係る対価の返還等に係る取引の内容(軽減対象資産に係るものである場合にはその旨)
④売上げに係る対価の返還等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額
⑤売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率

12.記載事項に誤りがあった場合

適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付した適格請求書発行事業者は、これらの書類の記載事項に誤りがあった場合には、これらの書類を交付した事業者に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければなりません。区分記載請求書とは異なり、交付を受けた事業者が自ら追記や修正を行うことはできません。

税額計算編

13.適格請求書等保存方式における仕入税額控除

本則課税(仕入に係る消費税額の実額を売上に係る消費税額から控除して納税額を計算する方法)により仕入税額控除を行う場合には、一定の事項が記載された帳簿及び適格請求書等の保存がある場合に限り認められます。したがって、適格請求書等を発行・交付できない免税事業者や消費者からの課税仕入れは、原則として仕入税額控除の対象とはなりません。この点は従来の仕入税額控除制度との最大の相違点です。

これを踏まえ、インボイス制度導入後は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で、仕入先や経費等の支払先が適格請求書発行事業者であるか否かを定期的に確認したり、請求書等を受領するたびに確認する作業が必要になります。今まで適格請求書発行事業者として登録されていなかった仕入先等が登録事業者となったことによって、登録日以後の請求書等をインボイスとして取扱うことができるようになったり、また、上記6.で説明したとおり登録取消届出書が提出されて、仕入先等が適格請求書発行事業者でない期間中に行った取引については仕入税額控除が適用できなくなったりするからです。なお、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」では、登録番号による検索のみが可能となっており、事業者名や住所などによる検索はできませんのでご注意ください。

皆さんのご想像通り、この確認作業は非常に煩雑です。実務上はこの確認作業をどうやって省力化するかを考えることが必要でしょう。当事務所ではTKCシステムを利用して、取引先名を登録すればその事業者が国税庁の公表サイトに登録されているか否かをシステムで自動的に判定できるようにしています。

①帳簿の記載事項

適格請求書等保存方式において保存が必要となる帳簿の記載事項は次のとおりです。これは区分記載請求書等保存方式における帳簿の記載事項と同じです。

(ア)課税仕入れの相手方の氏名又は名称(登録番号は不要)

(イ)課税仕入れを行った年月日

(ウ)課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、その旨)

(エ)課税仕入れに係る支払対価の額
なお、適格請求書等の保存が必要とされない場合には、上記の記載事項に加え、次の事項が記載された帳簿の保存が仕入税額控除の要件とされています。

(オ)帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨

(カ)仕入れの相手方の住所又は所在地

②保存すべき請求書等

適格請求書等保存方式において保存が必要となる請求書等は次のとおりです。

(ア)適格請求書

(イ)適格簡易請求書

(ウ)適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項に係る電磁的記録 

(エ)適格請求書の記載事項が記載された仕入明細書、仕入計算書等

③適格請求書等の保存が必要とされない場合

例えば自動販売機からの仕入れや、いわゆるリサイクルショップにおける消費者からの仕入れなどのように適格請求書等の交付を受けることが困難である等の理由により、次に掲げる取引は一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

(ア)公共交通機関特例の対象として適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

(イ)適格簡易請求書の記載事項(取引年月日以外)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引((ア)に該当するものを除く)

(ウ)古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(エ)質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

(オ)宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(カ)適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(キ)適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

(ク)適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

(ケ)従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

④住所又は所在地の記載が必要とされない場合

適格請求書等の保存が必要とされない場合には、帳簿の通常の記載事項に加え、「帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」及び「仕入れの相手方の住所又は所在地」の記載が必要とされていますが、仕入れの相手方が次の者である場合には住所又は所在地の記載は必要ありません。

(ア)適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送について、その運送を行った者

(イ)適格簡易請求書の交付義務が免除される郵便サービスの提供について、その郵便サービスの提供を行った者

(ウ)課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支給した場合のその出張旅費等の支給を受けた使用人等

(エ)③の(ウ)、(エ)、(オ)に該当する場合の課税仕入れの相手方(古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限る)

(オ)③の(カ)に該当する場合の課税仕入れの相手方(事業者以外の者から受けるものに限る)

14.適格請求書等保存方式における税額計算

イラスト:女性

適格請求書保存方式における税額計算は、区分記載請求書等保存方式と同様に、すべての売上げ及び仕入れについて税率の異なるごとに区分し、税額計算を行うこととなります。

ただし、一定の条件を満たし簡易課税制度の適用を受ける事業者は、仕入れに係る消費税額の計算をみなし仕入率により行いますので、②の方法による計算は必要ありません(課税売上げに係る消費税額に一定の割合を乗じて仕入れ控除税額を計算します)。

なお、少額の取引を数多く行う小売業などの業種は、割戻し計算又は積上げ計算のいずれを採用するかによって納税額に影響が生じますので、自社の事務負担を考慮し、有利かつ対応可能な方法を採用するのがよいでしょう。

①課税売上げに係る消費税額の計算

(ア)原則(割戻し計算)

課税売上げに係る消費税額は、原則として割戻し計算によって算出します。税率ごとに区分した課税期間中の課税資産の譲渡等の税込価額の合計額に、108分の100又は110分の100を乗じて税率ごとの課税標準額を算出し、それぞれの税率(6.24%又は7.8%)を乗じて課税売上げに係る消費税額を算出します。

㋐軽減税率適用分の課税売上げに係る消費税額
=軽減税率適用の課税売上げの税込価額の合計額×100/108×6.24/100

㋑標準税率適用分の課税売上げに係る消費税額
=標準税率適用の課税売上げの税込価額の合計額×100/110×7.8/100

㋒課税売上げに係る消費税額
=㋐+㋑

(イ)特例(積上げ計算)

適格請求書発行事業者が、相手方に交付した適格請求書等の写しを保存している場合には、これらの書類に記載した消費税額等の合計額に100分の78を乗じた金額を課税売上げに係る消費税額とすることができます。なお、適格簡易請求書を交付する場合において、記載事項のうち適用税率のみを記載し、税率ごとに区分した消費税額等を記載していないときは、この特例により計算することはできません。

課税売上げに係る消費税額
=適格請求書等に記載した消費税額等の合計額×78/100

(ウ)割戻し計算と積上げ計算の併用

課税売上げに係る消費税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することができます。

②課税仕入れに係る消費税額の計算

(ア)原則(積上げ計算)

㋐請求書等積上げ計算
交付を受けた適格請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れ等に係る部分の金額の合計額に、100分の78を乗じて算出する方法です。なお、適格簡易請求書に適用税率のみの記載があり消費税額等の記載がない場合は、適格請求書に記載する消費税額等と同様の方法により計算した金額を基礎として、課税仕入れに係る消費税額の計算を行います。

税仕入れに係る消費税額
=適格請求書等に記載した消費税額等の合計額×78/100

㋑帳簿等積上げ計算

課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合には108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数につき切捨て又は四捨五入)を仮払消費税額等として帳簿に計上している場合に、その金額の合計額に100分の78を乗じて算出する方法です。

課税仕入れに係る消費税額
=帳簿に記載した仮払消費税額等の合計額×78/100

(イ)特例(割戻し計算)

税率の異なるごとに区分した課税仕入れに係る支払対価の額の合計額に、110分の7.8(軽減税率の対象となる場合には108分の6.24)を乗じて算出した金額の合計額を、課税仕入れに係る消費税額とすることができます。ただし、この特例により課税仕入れに係る消費税額を計算することができるのは、課税売上げに係る消費税額を原則の割戻し計算で行っている場合に限られます。

㋐軽減税率適用分の課税仕入れに係る消費税額
=軽減税率適用の課税仕入れの税込価額の合計額×6.24/108

㋑標準税率適用分の課税仕入れに係る消費税額
=標準税率適用の課税仕入れの税込価額の合計額×7.8/110

㋒課税仕入れに係る消費税額
=㋐+㋑

(ウ)積上げ計算と割戻し計算の併用

課税仕入れに係る消費税額の計算は、請求書等積上げ計算と帳簿等積上げ計算は併用することができますが、これらの方法と割戻し計算を併用することはできません。

③適用できる組み合わせ

売上げに係る税額及び仕入れに係る税額の計算につき、事業者が適用できる組み合わせは次のとおりです。

売上げに係る消費税額の計算方法適用控除対象消費税額の計算方法
割戻し計算請求書等積上げ計算
帳簿等積上げ計算
割戻し計算
積上げ計算請求書等積上げ計算
帳簿等積上げ計算
×割戻し計算
割戻し計算と積上げ計算を併用請求書等積上げ計算
帳簿等積上げ計算
×割戻し計算

(国税庁の資料を基に筆者加筆)

④適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置

適格請求書等保存方式の導入後は、免税事業者や消費者など適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、原則として仕入税額控除は認められません。

ただし、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書等の保存があり、かつ、帳簿にこの経過措置の規定の適用を受ける旨の記載がある場合には、次表のとおり、制度導入後6年間は仕入税額相当額の一定割合の仕入税額控除が認められます。

例えば、令和5年10月に免税事業者から車両を110万円(税込み)で購入した場合の仕訳は次のようになります。

    借 方         貸 方

(車両運搬具)102万円  (現 金)110万円

(仮払消費税) 8万円

   適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置

期 間割合
令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日まで80%
令和8年(2026年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日まで50%

15.令和5年度税制改正による特例措置について

①インボイス発行事業者となる小規模事業者に係る納税額の負担軽減等(2割特例)

インボイス発行事業者の令和5101日から令和8930日までの日の属する各課税期間において、免税事業者がインボイス発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとされました。

これにより、免税事業者がインボイス発行事業者になる際の申告事務及び納税額の負担が大幅に軽減されることになりました。

の適用を受けようとする場合には、事前の届出は必要なく、確定申告書にその旨を付記すれば適用されます。

なお、この措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間(つまり、課税期間の短縮を行っている場合)及び令和5101日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については、適用しないこととされています。

②仕入税額控除のインボイス保存要件の緩和(少額特例)

基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5101日から令和11930日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を講ずることとされました。

区分記載請求書等保存方式では、仕入税額控除を本則課税により行う場合には、課税仕入れに係る帳簿及び請求書等の保存が適用要件とされており、例外的に課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合には、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる特例(消法30⑦、消令49①)がありますが、この規定はインボイス制度の開始により廃止されます。そのため、この少額特例の制度は緩和措置として設けられたものといえます。

③適格返還請求書(返還インボイス)の交付義務の緩和

令和5101日以後の課税資産の譲渡等につき行った売上げに係る対価の返還等について、売上に係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除することとされました。

この返還インボイスの交付義務の緩和措置ですが、売上代金に係る銀行振込手数料の対応処理につき、実務に即して制度の見直しが行われたようです。この見直しは事業者の規模に関係なく、また終了期限もありませんので、インボイス制度開始後の課税資産の譲渡等に係る売上に係る対価の返還等について、全ての事業者が恩恵を受けることができます。

ただし、銀行の振込手数料に適用される税率は標準税率の10%ですが、例えば飲食料品等の譲渡のみを行った場合に、銀行振込手数料相当額の売上値引きに適用される税率は標準税率ではなく、飲食料品等の譲渡に適用される軽減税率の8%となることに注意が必要です。

その他編

16.適格請求書発行事業者登録の判断について

前述のとおり、適格請求書(インボイス)を発行するためには適格請求書発行事業者として登録を受けなければなりません。現在免税事業者は全国で約520万件あると推測されますが、免税事業者からの課税仕入れは仕入税額控除ができないことから、適格請求書発行事業者でない事業者が取引から排除されることも考えられます。取引が継続されることになっても、本体価額に加えて消費税相当額という名目での請求は事実上できなくなりますので、取引金額は税抜金額のみとなり、場合によっては実質的に消費税相当額の値下げを受け入れたのと同様になります(この点については、独占禁止法や下請法の観点からも得意先と交渉を行う必要があると考えられます)。

経営への影響を最小限に抑えるためには、適格請求書発行事業者になって適格請求書を交付することも考えられます。適格請求書発行事業者になれば消費税の申告及び納税義務が発生し、事務負担が大幅に増加することとなりますので、顧問税理士等に相談して慎重に判断し、自社にとって最適な選択をしてください。また、適格請求書発行事業者となる場合には、2割特例の適用や簡易課税制度の適用も検討しておきましょう。

このように、自社の得意先の動向を注視しつつ、適格請求書を発行できないことが事業にどの程度影響するかを考慮し、免税事業者のままでいるのか、それとも適格請求書発行事業者となるのかを決定するのが望ましいと考えます。特に、最近の働き方の多様化によって生まれたフリーランスやギグワーカーなどの事業者は、適格請求書発行事業者となるメリット・デメリットを十分に比較・検討してから判断するべきでしょう。

また、課税事業者であるという理由で適格請求書発行事業者の登録が強制されることはありませんので、例えば取引相手が消費者のみであるような小売業やサービス業を営む事業者は、事務負担を考慮し、敢えて適格請求書発行事業者の登録を受けない、つまり適格請求書発行事業者でない課税事業者のままでいるという選択肢もあります。

いずれにしても、適格請求書の交付の有無が自社に与える影響や自社の事務処理負担を十分に考慮し、適格請求書発行事業者として登録するか否かを決定するようにしてください。

<参考> 国税庁 インボイス制度特集ページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm

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近畿税理士会所属